犬塚孝明先生
略歴
新資料による修訂決定版
今年(1997年)は森有禮生誕百五十年にあたる。この節目の年に、『新修森有禮全集』全6巻を出すのも、あながち意味のないことではあるまい。旧版刊行後二十五年という長い歳月の中で新しい史料も数多く発見されたが、それらの史料の取捨選択も困難な言葉の一つであった。今回新しい全集では、従来の「補遺」を本文中に正しく組み入れ、その間にできるだけ多くの新史料を挿入し収録するように努めた。
今回の『新修森有禮全集』は、全全集の体裁を生かしつつも使い勝手を配慮して全体を六巻に分け、第一巻が「政治・法制・外交篇」、第二巻が「学問・宗教・文化・教育篇」、第三巻が「紀行・日記・書翰・伝記資料篇」、第四巻が「留学関係資料・雑簒篇」、第五巻が「英文資料篇」、別巻が「解説篇・年表」という構成になっている。この内、最も新史料が多いのは、第四巻である。以下、順次各巻におけるめぼしい新史料を紹介しておく。
まず、第一巻であるが、中野目徹氏(筑波大学)の前面的な協力を得て国立公文書館や外交史料館所蔵文書から、森関係の新資料や外交行政にかかわる森の意見書を収録できたことは幸いであった。中でも圧巻は、『使清日記』並びに『使清復命』(全三冊)を全文収録できたことであろう。本史料には、森が清国へ出発する明治八年十一月から翌年四月までの全行動が外交文書を交えながら書記官に手によって綿密に記されており、対清外交交渉を知る上で最重要の史料である。